インセインシナリオ_羊を数える /*シナリオ情報*/ ライティング:アルバガルド http://ikefukurou.sakura.ne.jp/alba/ 更新日:2017/05/10 本シナリオは新紀元社発行『マルチジャンル・ホラーRPG インセイン』の二次著作物です。 /*事前情報*/ ■セッティング シナリオタイトル:羊を数える シナリオタイプ:協力型 セッティング:本当は怖い現代日本 プレイヤー人数:2 サイクル:3 使用するルールブック: 『マルチジャンル・ホラーRPG インセイン』 ■トレーラー  それは眠りを呼び起こす古よりの儀式。  閉じたまぶたの内側で、想像上の羊を数える。 「羊が一匹、羊が二匹……」  しかし、あなたはきちんと考えたことがあるだろうか。もしもそんな大量の羊が本当にいたらどうなるか。それがあなたの頭から迷い出てきてしまったら……?  羊を数えて、眠りについて数時間。寝苦しさに目をさますと、なんと部屋いっぱいに羊があふれていた。この羊たちときたら本は食べるし、喧嘩ははじめるし、毛皮はもこもこだし……。  ああ、羊なんて数えるんじゃなかった! /*GM用テキスト*/ ■背景  古い時代、羊飼いのあいだでは、夢の牧人と呼ばれる神が信仰されていました。夢の牧人は捧げられた生け贄を羊へと変え、人の夢から夢へと連れ歩いているのです。  羊たちはおおむね牧人に従順です。しかし羊を数える声を聞くと、牧人の呼び声と勘違いして、現実世界へとさまよいでてしまうことがあります。  PC@が羊を数えたことで、羊たちはPCたちの寝室にあらわれます。このまま放置しておくわけにはいきません。なにしろ牧人が飼うおそろしい牧羊犬は、羊泥棒をけっして許さないのです。  事態を解決するためには、正確に羊を数えて、夢の牧人に返す必要があります。羊を数えることからはじまった災難は、羊を数えることで終わりを告げるのです。 ■狂気  このシナリオでは以下の8枚を使用します。 『インセイン』収録:「疑心暗鬼」「広がる恐怖」「パニック」「いきすぎた想い」「フェティッシュ」「血への渇望」「怪物」「潔癖」 ■シーン表  本シナリオでは「羊シーン表」を使用します。 ■特記事項  本シナリオに登場する夢の牧人は、まったく架空の信仰です。 /*シナリオ本文*/ ■導入  PC@とPCAは同じ寝室で寝泊まりしています。家族、恋人、たまたま泊りにきた友人などの関係が適しているでしょう。  その晩、PC@は目がさえてしまい、なかなか眠ることができませんでした。時計の針の音がコツコツとひびき、時間だけが過ぎていきます。そこでPC@は古い言い伝えのとおり、「羊を数える」ことに決めました。  まぶたの裏に羊を思い浮かべ、彼らが柵を乗り越えるたびに、「羊が一匹、羊がニ匹……」と数えるのです。  この単純作業は眠りを呼び起こすことに成功しました。結局、羊を何匹まで数えたのかはおぼえていません。夢の中でも羊を数えつづけたような気もします。  それから数時間後、まだ朝がきていないのにPC@とPCAは目覚めてしまいます。なんだか耳元がうるさいのです。それになにかひどい異臭がします。まるで動物園の檻の中にほうりこまれたかのようです。  それに全身をこするこのふわふわあたたかな毛皮の感触はいったい……?  PC@とPCAがあたりを見回すと、なんとベッドの上に数匹の羊がのっています。いえ、ベッドだけではありません。部屋中いっぱいに本物の羊がひしめいているのです!  PC全員は《驚き》で恐怖判定を行ってください。  羊たちはすっかり窮屈になった寝室のなかで、好き勝手にふるまっています。  もちろん、野生の羊の群れが迷い込んだ……ということはありえません。PCたちの家の近くにそんな羊はいませんし、部屋のドアはぴたりと閉じています。ひとまず羊を外に出そうと考えるかもしれませんが、群れはPCたちの家から出て行こうとしません。  ではいったいどうすれば……?  「羊」のハンドアウトを公開してください。これで導入フェイズは終了です。 ■メインフェイズ  以下のマスターシーンが発生します。 ●羊が多すぎる  1サイクル目の1シーン目に挿入されるマスターシーンです。  見慣れない場所に来てしまったせいか、羊たちは興奮状態です。部屋中あちこちを歩き回り、思う存分ひっかきまわしています。  PC@はとくに羊たちに気に入られているようです。何匹かの羊が膝下にすりよってきて、歩くことさえままなりません。  PCAがGMにプライズ「メエリンガル」を返した場合、GMはプライズ「羊たちの会話@」を渡してください。 ●異形の遠吠え  2サイクル目の1シーン目に挿入されるマスターシーンです。  PCたちが羊たちに悪戦苦闘していると、どこからか遠吠えのようなものが聞こえてきます。それは魂を芯から凍えさせる、なにかおそろしいものに感じられます。耳をふさいでも、なぜか効果がありません。  PC全員は《物音》で恐怖判定を行ってください。  しばらくたつとまた同じ鳴き声が聞こえます。どうやらそれは、この部屋に近づいてきているようです……。しかしどういうわけか、室内の羊たちにとくにおびえた様子はありません。  「遠吠え」のハンドアウトを公開してください。  PCAがGMにプライズ「メエリンガル」を返した場合、GMはプライズ「羊たちの会話A」を渡してください。 ●うとうと  3サイクル目の1シーン目に挿入されるマスターシーンです。吠え声はもうすぐそこまで近づいてきています。あたりには羊のものとはちがう、獣臭が漂いはじめます。しかし人間たちの緊張の高まりとは裏腹に、羊たちはのんきなもの。  部屋の探索につかれたのか、あるいは部屋の中が安全であることを確信したのか。動き回るのをやめて、うとうとし始めます。  今は深夜。羊も本来なら眠りの時間なのです……。  PCAがGMにプライズ「メエリンガル」を返した場合、GMはプライズ「羊たちの会話B」を渡してください。もしPCAがプライズ「メエリンガル」を所持したまま手放そうとしない場合、「このまま進めてかまいませんか?」と念を押してください。 ■クライマックス  クライマックスになると、ついに牧羊犬が部屋の片隅から現れます。その姿はとても醜悪で、本物の犬にはあまり似ていません。筋肉は奇妙にねじくれ、体表がぼこぼことあわだっています。PC全員は《混沌》で恐怖判定を行ってください。  牧羊犬と戦闘を開始してください。牧羊犬はまずPCAを狙いますが、PC@が邪魔しようとするなら、PC@も攻撃の対象とします。PCが「夢の牧人」の【秘密】を得ていたならば、同時に儀式「羊を数える」を行うことができます。  儀式「羊を数える」に成功したなら、GMはプレイヤーに「羊の数はぜんぶでちょうど100匹」と教えてください。 ■結末  PCが「迷える100匹、御身にお返しします」と唱えると、牧羊犬は動きをとめます。すでに倒されていたならば、しずかに起き上がります。そして流暢な人語で「嘘を言うな。この家にはしるしが101個あるぞ」と返します。余分な1個はプライズ「渦巻き角のしるし」のことです。プライズの【秘密】までは牧羊犬も知りません。  PCが「迷える101匹、御身にお返しします」と唱えた場合は、PC@を見定めるかののように、じっと見つめてきます。  しかしどちらの場合でも、牧羊犬は頭をふって、「そいつはまだ死んでいない。今は預けておこう」と言いのこし、そのまま消えていきます。生け贄が羊になるのは、死んだあとなのです。羊もいつのまにかみんないなくなっていました。PCたちの【使命】は達成されます。  牧羊犬を倒したものの、儀式「羊を数える」に成功しなかった場合、PCたちのもとには羊の群れが残ります。どう処分するかはプレイヤーが話し合って決めてください。その内容によって【使命】が達成されたか、判断してください。  プライズ「渦巻き角のしるし」の【秘密】を知ったPC@が、その力を行使するなら結末はいかようにでも変わります。羊と牧羊犬はPC@の正体を悟ると、素直にその言葉に従います。夢の牧人の崇拝者であるPC@の父親は「ああ、ついに目覚められたのですね」と大喜びします。PCたちの【使命】は達成できます。 /*儀式:羊を数える*/ 【段階】1 【手順の名前】羊を数えはじめる  【指定特技】《追跡》 【参加条件】全員 【ペナルティ】なし 【段階】2 【手順の名前】羊を数えつづける 【指定特技】《整理》 【参加条件】全員 【ペナルティ】判定に失敗すると【生命力】と【正気度】をそれぞれ1点失う。 【段階】3 【手順の名前】羊を数えおわる 【指定特技】《数学》 【参加条件】全員 【ペナルティ】判定に失敗すると【生命力】と【正気度】をそれぞれ1点失う。 /*牧羊犬*/ 脅威度:5 属性:生物/怪異 生命力:15 好奇心:暴力 特技:《破壊》、《脅す》、《におい》、《夢》 【基本攻撃】 攻撃 《脅す》 【連撃】 サポート 《破壊》 自分が攻撃を行い、攻撃の目標が回避判定に成功したときに使用。攻撃の目標はこのアビリティの指定特技でもう一度判定。失敗すると攻撃は命中したことになる。 解説 夢の牧人に仕える牧羊犬。古代、羊飼いのいない羊の群れとの遭遇は、凶兆と考えられていた。というのもそれは羊飼いが羊を残して突然死した原因が、まだすぐ近くにひそんでいる可能性を意味していたからだ。この牧羊犬はそうした見えない脅威が、伝説となったものであると考えられている。 /*ハンドアウト*/ ▼名前:PC@ 【使命】 あなたはPCAと同じ寝室で寝起きしている。数時間前、どうも寝つけなかったあなたは、羊を数えながら、なんとか眠りについた。 しかし深夜、奇妙な鳴き声と獣の体臭によって起こされてしまう。目を開くと部屋いっぱいに羊があふれていた。 あなたの【使命】は羊をなんとかすることだ。 【秘密】 ショック:なし あなたの身体には、昔からちいさなアザがある。アザと呼んではいるが、その模様には明確なデザイン性を感じる。あなたの父親はこれを「羊の渦巻き角」と言っていた。あなたは父親がこのタトゥーをいれたのではないかと疑っている。しかしやさしい父親が、なぜこんなものを幼い子どもの肌にいれたのかわからない……。あなたはプライズ「渦巻き角のしるし」をもっている。 ▼名前:PCA 【使命】 あなたはPC@と同じ寝室で寝起きしている。数時間前、どうも寝つけなかったらしいPC@は「羊が一匹、羊がニ匹……」と唱えはじめた。そのかたわらで、あなたもじきに眠りについた。 しかし深夜、奇妙な鳴き声と獣の体臭によって起こされてしまう。目を開くと部屋いっぱいに羊があふれていた。 あなたの【使命】は羊をなんとかすることだ。 【秘密】 ショック:なし まさかこれを使う日が来るとは思わなかった……あなたは羊語翻訳装置であるプライズ「メエリンガル」をもっている。GMは各サイクルの冒頭のマスターシーンで、羊の様子を描写する。あなたはそのときプライズ「メエリンガル」をGMに渡すことで、かわりにプライズ「羊たちの会話」を手に入れることができる。ただしプライズ「羊たちの会話」の内容は各サイクルごとに異なる。 ▼プライズ:渦巻き角のしるし 【概要】 PC@の肌に描かれたあざ。もしくはタトゥー。羊の渦巻き角が図案化されている。 このプライズの【秘密】はクライマックスでのみ、見ることができる。ただしそのときPC@の【生命力】が2以下でなければならず、かつ行動不能であってはならない。 【秘密】 危機に瀕したPC@は、真の力に目覚める。これはタトゥーではない。羊飼いたちの古き神、夢の牧人……その現し身であることをしめす聖なるアザだ。このプライズの【秘密】を知ったPC@は、夢の牧人に従属する存在すべてに自由に命令が可能になる。また現実と夢とを自由に移動できる。PC@は超次元の存在であり、もはや人のくびきにとらわれる必要はない。逆にこのままなにも知らないふりをして、人としてふるまってもよい。 ▼プライズ:メエリンガル 【概要】 PCAの枕元にほっぽってあった羊語翻訳装置。羊がなにをしゃべっているかわかる……らしい。とはいえ羊と話す予定はなかったので、バッテリーが心もとない。一回使えば、充電が切れるだろう。 ▼名前:羊 【概要】 寝室いっぱいにひしめく羊。うるさいし、匂う。ちょっと数えただけでも物理的に寝室に入るはずがない数がいる気がする……。 【秘密】 ショック:なし 拡散情報。羊毛をかきわけると、すべての羊の肌に同じマークがついていることがわかる。 ハンドアウト「焼き印」を公開する。 ▼名前:焼き印 【概要】 羊に刻まれた焼き印のようなもの。ぐるりとなにかが渦を巻くようなかたちをしている。なんのマークだろう? 【秘密】 ショック:全員 拡散情報。古代の羊飼いたちの信仰、夢の牧人のしるし。この古き神の祭祀では、子どもをささげる人身御供が頻繁におこなわれていた。そのとき生け贄にはこの焼き印が押されたのだ。しるしを刻まれた生け贄たちは死後、牧人の飼う羊となり、夢の中で生きることになるという。 《夢》で恐怖判定を行う。 ハンドアウト「夢の牧人」を公開する。 ▼名前:夢の牧人 【概要】 ヨルダン川のほとり、カナン地域の古い土着信仰。人の夢から夢へと、羊を連れて歩いている。信徒を羊になぞらえる聖書の修辞法は、この伝承に由来するという説もある。のちにアッシリアやイスラエルの信仰と習合し、衰退したというが……。 【秘密】 ショック:なし 眠りぎわに羊を数えると、牧人の羊たちは飼い主の呼び声と勘違いして、夢から迷い出てしまう。羊を返すには迷いでた羊を正確に数え、「迷える――匹、御身にお返しします」と唱える必要がある。 PCはクライマックスで儀式「羊を数える」を実行できる。 ▼名前:遠吠え 【概要】 どこかから聞こえるおぞましい遠吠え。しかしどんどん近づいてくる。 【秘密】 ショック:全員 夢と現実を移動する牧羊犬の鳴き声。夢から迷い出た羊を連れ戻すことを【使命】としている。その性格は獰猛で、羊泥棒を確実に追い詰めて殺す。逃れることはできない。 《死》で恐怖判定を行う。 ▼プライズ:羊たちの会話@ 【概要】 「むぎゅう、せまい。なんてちいさな草原なんだ」 「でもこの人間からは、なにか俺たちと同じにおいがするぞ。いいにおい!」 「ねえねえ。こんなの見つけちゃった。これもこの人間とおんなじ匂いがするぞ。もぐもぐ」 「あ、いーなー」 って今、羊がおもちゃにしてるの……PCAがPC@に送ったプレゼントじゃないか! 返しなさい! このプライズを最初に得たPCはお守りをひとつ得る。 ▼プライズ:羊たちの会話A 【概要】 「あっ、またあいつが吠えてる。ほんと、嗅ぎつけるのはやいなぁ」 「でも、俺たちには手出ししないから、怖くなんてないよ」 「しないんじゃない。できないんだ。だってそういう命令だから」 あの鳴き声の主は、羊には手出しできないらしい。ということは羊の群れの中に隠れれば……? 持ち主がエネミーからダメージを受けたとき、一度だけダメージを0にすることができる。 ▼プライズ:羊たちの会話B 【概要】 「ふわぁ……あいつうるさいなぁ。おちおち眠れやしないよ。そんなに鳴かなくても逃げたりしないって」 「失礼しちゃうよね。僕たちお行儀よい羊なのに」 「指でぴーって鳴けば、きちんとならぶもんね」 どうやら羊たちは指笛をふくと、並ぶようにしつけられてるようだ。 シーン内のPCが羊を数える行為判定に失敗したときに一度だけ宣言できる。その行為判定をふりなおす。 /*羊シーン表*/ 2 唐突にウールのセーターがほしくなる。 3 『メリーさんのひつじ』をふたりで合唱する。たのしい。 4 そ、それはダメ! 羊が大事な本を食べはじめる。 5 羊が顔をなめてくる。うっ、べとべとする。 6 羊の群れがのしかかってきて、つぶされる。こんな死にかたはいやだ……。 7 めえめえ! とにかく羊の鳴き声がうるさい。 8 足下を見たらよちよち歩きの子羊がいた。かわいい。 9 ねえ、何匹かヤギが混ざってない……? 10 雄羊同士が角で喧嘩をはじめる。ああ、争わないで……! 11 羊たちの排泄物で床が大変なことになってしまう。 12 唐突にジンギスカンが食べたくなる。